自分は大学院に進学した理系修士卒ですが、僕から見ると今の日本の同時期一括採用には疑問を持つ箇所がいくつかあります。その一つが、大学3年生のうちに「就職」か「進学」かを決めなければならないことです。
多くの場合、研究室に配属されるのは大学4年生からなので、本格的な研究に携わる経験がないうちに研究を続けるか、就職するかの選択を求めるのはなかなか酷だと思います。
そこで、何かヒントになるところがあればいいなと思い、大学院へ進学して感じる個人的なメリットとデメリットを述べさせて頂きます。
なお、当方理系生物系なので、文系、芸術系、その他の理系とはまた異なるものだとご理解下さい。
目次
大学院進学で感じたメリット
修士論文執筆というゴールから逆算し、計画を遂行する力が養われる
卒業論文は担当教員がOKすれば卒業できますが、修士論文の場合、教授、准教授計3名による承認が必要で、さらに提出後は各大学のデータベースに一生涯保管されます。
大学に保管されても恥ずかしくないきちんとした論文が求められるので、なかなか手を抜くことができません。
2年間という限られた時間の中でそれなりの論文を仕上げるためにも、年間スパン、月スパン、日スパンで計画を見直し、修正、実行していくスキルが磨かれます。
自分で本・論文を読み、実践できるようになる
研究を進めていくためには、参考になる本や論文を使って自分で勉強し、実践していくことが求められます。
担当教員 (教授) によっては指示が細かいこともあると思いますが、僕の先生は道筋だけアドバイスしてくれ、具体的な方法は自分で考えろというタイプだったので、「分からないことは自分で調べる」という癖がつきました。
特に自分の研究は日本語の文献がほとんどなかったので、参考文献の99%は英語の本、論文でした。英語に対する免疫力もつきました。
研究操作に慣れる
研究をはじめて1年間は、実験器具や高価な分析機器の使い方が全くわかりませんでした。面倒見の良い先輩方から丁寧に詳しく教えてもらっているうちに、初めての操作や器具でも説明書を読みながら自分一人の力で使いこなしていく力が付きました。
「習うより慣れろ」で、初めてのことでもものおじせずに実践していく度胸が身に付きます。
プレゼンテーションへの素早い対応
僕の所属していた研究室の教授、准教授はプレゼンにすごくこだわる方々で、
平均して月1回以上はプレゼンさせられていました。
突然「1週間後、○○のプレゼンよろしく」のように無茶ぶりが飛んでくることも日常的だったので、プレゼンの準備、発表含め、かなり素早く対応できるようになりました。
あと、パワポは使いこなせるようになります。
割と遊ぶ時間もとれる
これは研究室によるところですが、僕が所属していた研究室は「普段きちんと実験していれば、遊ぶのは大いに結構」という寛容なところだったので、研究室対抗ソフトボール大会、ボウリング大会、BBQ、週末の飲み会、部活動 etc… 何かと楽しく遊ぶ時間を過ごせました。
モラトリアムの延長戦という表記も納得。満足でした。
大学院進学で感じたデメリット
社会に出るのが2年遅れる
大学院と社会で積める2年の経験はもちろん全く違います。社会で積める経験は、例えばお客様とお会いしたり、社会の慣習を肌で感じたり、研究室という閉じた世界と比較すると生きた経験が積めると思います。
また、2年分の給与の差を回収できる経験や知識を身につけられるか、さらに卒業するころには24〜26歳になっているという年齢ハンデ分を回収できるかなど、20代の貴重な2年間を費やすことを天秤にかけ、「自分のためになる時間を過ごせるか」を一度考えた方が良いと思います。
ただ、社会に出れば2年間は誤差という考えの人もいます。やってみなければわからないと捉えていただければと思います。
学費が余計にかかる
時間と同時に問題になるのはお金の問題。学費免除の場合除き、2年分の学費が余計にかかることも考慮しなければなりません。
その学費は奨学金、バイトで賄うのか、親族からの仕送りか。
奨学金の場合は返済のこともあるので、シビアに人生設計を行っていく必要があります。
中途半端な専門性
すごく悪い言い方ですが、修士を出たからといって、専門家になったとは言えません。専門家を名乗るのであれば博士号 (ドクター) を取得しなければならないからです。
特に技術者として海外で働く場合には、ドクターを持っていないと相手してもらえないこともあると聞きます (教授談)。
(※ 日本とアメリカでは博士号の重要性、価値観が全く異なる。日本では博士号は軽視されがちだが、アメリカでは専門家として箔がつく)
そういった意味では、修士というのは学士とも博士とも言えない中途半端な立ち位置に見られがちです。
教授と合わないと地獄
研究室に所属していた人間としては、担当教員との相性が運命を左右するということをある程度認めせざるを得ません。実際に学生をこき使う先生や、パワハラまがいの言動、行動を起こす方も少なからずいます。
学生と教授の相性が悪いと登校拒否、行方不明、悪くすると自殺などが本当に起こるので (実際に聞いた話)、所属先を見極めるのは大学院でうまくやっていく一つの要素なのかもしれません (本当にごく少数例だと思いますが…)。
技術職が確約されるわけではない
理系の大学院に進学する理由の一つとして「研究開発などの技術職を目指すから」というものがあると思います。理工系、特に機電、情報系、建築系、有機化学系は教授推薦などで希望の技術職に就き易いとは思いますが、生物系分野の人は技術職に就くのは狭き門だと知っておく必要があります。
その大きな理由は共有過多。
生物・化学系の技術職で思い浮かぶのは「製薬・化学・化粧品・食品」での開発、生産など。ただ、製薬は医学系、薬学系、化粧品は有機化学系の超優秀な学生が参入してくる上、大企業でも技術職の年間採用数は10名とかが普通。
余裕で学生の数が余ります。本当にものすごい数の学生が余ります。
そうすると、技術系以外の職種 (営業、事務など) を選択するしかないので「理系院卒でも必ず技術職に就けるわけではない (というか就けるのはごく一部)」ということを知ったうえで進学を志した方が良いかと思います。
まぁネガティブなこともたくさん書き連ねてしまいましたが、個人的には進学して良かったと思うことが多いです。
僕は進学含め、ここまで適当にきてしまいましたが、もっと先のことを考えて行動できればよかったなという自身への戒めの意味を込めて書きました。
では、そんな感じで!
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