最近自分の中では「芸術やアートをどのように収入に変えられるか」ということが大きなテーマとなっています。
前回紹介した岡本太郎さんのように「芸術とは生きること」を体現した結果として、収益が得られれば理想だと思います。
【感想】岡本太郎著『自分の中に毒を持て』を読む アートとは何か?
しかし現実はなかなか厳しいもので、芸術一本で生きていくのは現代では至難の技と考えられます。そうなると「芸術家」という道だけで本気で生きていく術を考えるのであれば、今回ご紹介する村上隆さんの著書『芸術起業論』のように、経営者の視点で芸術をみる必要が少なからず重要になってくるのではというのが私の考えです。
[目次]芸術活動とはサービス業である
私は常々アート活動とは「サービス業」だと考えています。デザインとは異なり、作品自体は自分が心から作りたいと思ったものを作っていますが、展示会に来てくださった方には最大限楽しんでいただけるよう、作品を通して最大限のおもてなしをするのも作家の務めの一部と考えています (※ あくまで私の場合)。
村上さんの著書中に、まさにこの考えに合致する部分がありました。
ぼくの想定している美術作品の制作方針は、おそらく料亭やレストランを作ろうとすることに近いのだと思います。
店の外観や内壁のデザイン。
作庭。
調度品選び。
従業員教育。
調理場の料理人やサービスの人間と店の方向性を話しあう。
仕入先には連絡をたやさない。
情報収集にいそしみ、常連さんにもはじめての人にも楽しんでいただけるように工夫する。
そして毎日休まず料理をお客さんに出し続ける・・・・・・。
こういう姿勢はぼくが工房に求めることと基本的には変わりません。
『芸術起業論』村上隆 (幻冬舎)
私の場合、展示会のコンセプトは「時間を割いて来てくださった方にどのように楽しんでもらえる工夫ができるか」といった発想からスタートします。自分の作品を知ってもらうことと同じくらい、「来てよかった」「楽しかった」と言っていただけることに喜びを感じます。
- アート→自分の作りたいものを作る
- アート活動→人に喜んでもらえるものを提供する
以上が現在の活動の目標です。
作品にドラマを付加する
「作品がよくなくてもそこにドラマが付加されれば、ゴッホのように生き残ることができる」というしかけが、現代美術における発明なのです (もちろん絵画的な力に根拠がなければ生き残らないのですがら「ゴッホはダメ」と言ってるわけではない。……と若年読者に注釈をしておきます)。
『芸術起業論』村上隆 (幻冬舎)
ゴッホの作品に価値がある理由として、ゴッホという人物が自分の耳を切り取り、最期は自殺するという壮絶なエピソード自体が付加価値を与えているという解釈をしています。それだけ追い詰められた状況下で制作した作品には、ゴッホ自身の狂気や生き様が絵にエネルギーとして宿っていても不思議ではないので、この解釈自体は「卵が先か、鶏が先か」の議論になりそうなので言及しません。
ただ「芸術活動はサービス業」という考え方の私にとって、「作品に付加価値を与えるためにドラマを付与する」というのは一つの方法として採用価値があると考えています。
例えば前回の私の展示会では、絵の横にかなり詳しい制作意図や展示会全体のストーリー構成を解説したキャプションを設置しました。最初から答えを書いているようなものです。これは「芸術は高尚なもの。感じ取ってほしい」という価値よりも「アートに詳しくない人でも、作品と制作者の意図を比べて楽しんでほしい」という価値に重きを置いたからです。
「説明に頼りすぎ」などの批判があったとしても、アートをもっと身近なものとして楽しんでもらうための工夫を取り入れようと、常に考えています。
芸術をいかに収入にするか
さて、ここで本題。「芸術活動で収入を得る」にはおそらく相当な覚悟と運が必要と思われます。私には想像がつきませんが、村上隆さんのように海外オークションで作品に1億円とかの値がつく人はどのように活動しているのでしょうか? 村上隆さんはいくつか重要なヒントを述べており、特に私が重要だと感じた点は2点。
- お金持ち (資本家) がアーティストを支えるという西欧と日本の社会構造の差
- 日本人アーティストが世界で通用するには、世界基準の戦略が必要
まず1点目では、資本家がアーティストの作品を購入し活動を支援するという文化的な差 (体感だと、日本人は見て満足する人が多いイメージ。大抵は値段がそこそこするので、買えないというのもあると思いますが) や、作品の購入が節税対策になる社会構造の差があります (2017年1月1日から絵画の取得に関する税制が変更になりました。この変更が、日本の資産家とアーティストをつなぎ、アート界の活性化に繋がるかに注目しています。下記リンク参照)。
そうするとアーティストが作品を売って生きていくためには、買ってくれる人 (この場合は西洋のお金持ち) のところに行かねばならなくなります。
ただ、買う方も「なんでも買ってくれる」わけではないので、買ってくれそうな作品のルール (世界基準の戦略) としてあげられていたのが
- 作品の核心と歴史を相対化し、発表すること
- そのためにも歴史を学び、作品に生かしていく努力が必要
- 日本の頼るべき資産は技術、欧米の頼るべき資産はアイデア
といった点。
自分は生まれてからずっと日本にいるので、こういった芸術で生きていく基盤が本当に西欧にあるか、自分の目で確かめたわけではありません。ただ、芸術に対する文化的な違いなどは勉強していくと面白そうだなと思いました。
芸術を収入として生きていくには、まだまだ勉強が必要そうです。
芸術で生きていくことに関して、新たな視点を持つきっかけになるかもしれません。一読をオススメ致します。
では、そんな感じで!
コメントを残す